大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)24466号 判決

原告 株式会社東急レクリエーション

右代表者代表取締役 佐藤進

右訴訟代理人弁護士 齋藤晴太郎

同 伊達弘彦

同 園部昭子

同 関正晴

同 小澤信一

被告 後藤文男

被告 後藤英夫

被告ら訴訟代理人弁護士 長島良成

同 望月真

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告らから賃借している別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の賃料が、平成一〇年三月一日以降月額金五〇六万円であることを確認する。

二  被告らは、原告に対し、金一三二五万七五三八円を支払え。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、被告らが原告に対し、本件土地を賃貸しており、その賃料については、毎年の固定資産税額及び都市計画税の合計に四・〇を掛けた金額を一年間の賃料として、これを一二で割った金員を月額賃料とする旨合意していたところ、原告は、その特約により算出された賃料額が近隣相場等からみて不相当になったとして、この特約は、旧借地法一二条に反するもので無効である又は合意により破棄された旨主張して、賃料の減額と過払賃料の返還を求める事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  原告は、劇場その他娯楽施設の経営、不動産の売買、賃貸借及びその仲介、管理等を目的とする株式会社である。

2  被告らの先々代である後藤鈴五郎は、昭和二五年一月一日、原告の前身である新日本興業株式会社に対し、本件土地を建物所有目的、期間三〇年、賃料月額四三〇一円一二銭で賃貸した。

3  本件土地は昭和四六年一二月三日後藤鈴五郎から相続を経て後藤武雄の所有となり、さらに昭和五七年五月二三日に相続により被告らが取得し、同時に賃貸人たる地位も承継した。

4  原告と被告らは、昭和五八年一〇月一四日、この契約を、建物所有目的、期間昭和五五年一月一日より三〇年、賃料月額二〇九万六八七四円として、更新する旨合意した。

5  原告は、昭和六三年新たに現在の建物を新築するに際して、昭和六二年一月、被告と以下の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を改めて締結した。

目的 堅固な建物所有

期間 昭和六二年一月一日から三〇年間

賃料 昭和六二年一月分から同年一二月分までは月額三二七万〇六一〇円とし、以後、本件土地にかかる毎年の固定資産税及び都市計画税の合計に四・〇を掛けた金額を一年間の賃料と定め、これを一二で割ったものを月額賃料とする(以下「本件特約」という。)。

原告は、被告らに対し、更新料及び承諾料として昭和六二年一月、三月の二回に分けて、合計五億八〇〇〇万円を支払った。

6  原告は、被告らに対し、賃料減額を申し入れたが、合意に達することができず、平成六年分及び平成七年分の賃料として各々年額六八〇五万七六二八円を支払い、平成八年一月ないし六月分の賃料として三四〇二万八八一四円を支払った。

7  原告と被告らは、その後平成八年六月二八日、平成六年分ないし平成八年分の賃料に関し次の合意をした。

(一) 平成六年度分の年額賃料

平成五年の年額賃料に固定資産税及び都市計画税の負担増加額(平成六年分の負担額から平成五年分の負担額を差し引いたもの)を加算したものとする(具体的には年額六九七一万二二一二円)。

(二) 平成七年度分の年額賃料

平成五年の年額賃料に固定資産税及び都市計画税の負担増加額(平成七年分の負担額から平成五年分の負担額を差し引いたもの)を加算したものとする(具体的には年額七一〇九万七〇三六円)。

(三) 平成八年分の年額賃料

平成五年の年額賃料に固定資産税及び都市計画税の負担増加額(平成八年分の負担額から平成五年分の負担額を差し引いたもの)を月割りして加算したものとする(具体的には年額七二〇八万三六〇四円)。

8  被告らは、原告に対し、平成九年度分の賃料につき平成六年ないし八年度に準じた暫定賃料の申し入れをしたが、原告は、年額七二〇八万三六〇四円に据え置くよう申し入れ、以後、同賃料額を支払った。

9  原告は、平成一一年四月二三日、被告らに対し、賃料の減額の意思表示をし、平成一一年五月分から一ヶ月五〇六万円(年額六〇七二万円)を相当の賃料として支払っている。

三  争点

1  平成八年の地代に関する合意は、本件特約を破棄するものであったか。

(原告の主張)

原告と被告らは、平成八年六月二八日、本件特約を破棄することに合意した。

(被告らの主張)

平成八年の賃料に関する合意書は、平成六年ないし平成八年の三年間の賃料に関する暫定的な定めであって、本件特約を破棄するものではない。

2  本件特約の効力について

(原告の主張)

(一) 本件特約は、立て替えにあたっての特例的、緊急避難的色彩の強いものであり、土地の評価額及び建物の賃料が極端な下落傾向にある今日の如き状況においてまで、賃料を税額の四倍とすることに合意したわけではなく、今日においてまで右特約を維持することは信義衡平の原則に反する。

(二) 客観的に見て、鑑定評価書の鑑定結果からも明らかなように、右特約による賃料は、賃料としての相当性を欠くものとなっている。

すなわち、平成六年度から固定資産評価額を地価公示価格の七割程度とする画一的な評価替が実施されることになったが、契約締結当時原告も被告らも固定資産評価額がこのように大幅に引き上げられることを予見し得なかったし、固定資産評価額の引き上げは原告の責めに帰すべき事由によって生じたものではなく、本件特約に従って新賃料を定めると、近隣土地と比較した場合不相当に高額となるから、賃料改定について本件特約どおりの拘束力を認めることは、信義の原則に反する結果となる。

(三) 特に固定資産税が上昇を続けるのに対して、地価が著しく下落し、建物から得られる収益である家賃も下落が著しい今日の経済状況下においては、本件のような倍率方式による賃料自動改定条項の不当性は更に顕著なものとなっている。

(被告らの主張)

(一) 本件契約は、双方による慎重な検討と十分な交渉を経て締結されたものであり、本件契約上の定めは、特例的なものでも緊急避難的なものでもない。

(二) 確かに固定資産評価額は平成六年に急激に上昇したが、その税額は約一〇パーセントしか上昇しておらず、本件地代も同率の上昇しかしていない。

近時の固定資産税の上昇は当事者の予測の範囲内のものである。

(三) 本件土地のうち四一番一一(以下「一一土地」という。)について原告に賃貸している部分以外は当初四名の者に賃貸され、そのうち三名が各賃借部分に自宅を構えていたため、その部分が住宅扱いとされ、その結果、一一土地全体の課税は圧縮されていた。しかし、その後、右三名の住宅がなくなったため、平成九年の評価替にあたり、一一土地全体が非住宅扱いとされ、その結果、同土地の課税は上昇した。しかしながら、右住宅がなくなれば、一一土地全体が非住宅扱いとなることは、本件契約当時、不動産賃貸業を営む原告は当然知っていた。

(四) 平成九年の税額上昇の幅は、他の年に比べ特別大きいというわけではなく、原告の予想を大きく逸脱するものではない。

(五) 本件特約は、固定資産税等の増減を基準とするものであり、賃貸人の恣意を許すものでも、賃貸人にのみ有利に働くものでもなく、むしろ、税額という客観的な基準をもって賃料を定めることにより、賃貸人、賃借人間で、毎年、賃料額について争いや交渉をしなければならない事態を回避することができるのであって、極めて合理的なものである。

第三争点に対する判断

一  本件特約破棄の有無(争点1関係)

原告は平成八年の合意により、本件特約は破棄された旨主張するが、原告がその主張の基礎としている合意書(甲二)には平成六年ないし八年分の賃料について「本件特約にもかかわらず暫定的に定める」と明記されているところであり、本件特約を破棄するものでないことは明らかであり、他に本件特約を破棄したことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の主張は採用できない。

二  本件特約の効力について(争点2関係)

1  原告は、本件特約は旧借地法一二条に反し、無効であると主張する。しかしながら、固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)を基礎とする算定方法自体は、賃貸人の恣意を許すものでもなく、賃貸人、賃借人双方にとって公平なもので不合理なものではない。そして固定資産税等は、地価の変動に、税務政策上の諸要因を加味して決定されるものであって、即座に地価の上昇、下降に対応するものではないから、固定資産税等を基準とした賃料査定方法により賃貸人、賃借人ともに急激な地代の変更というリスクを回避しうるというメリットもある。そうすると、本件特約のような賃料自動改定条項は直ちに無効となるものではなく、その内容が旧借地法その他の法令に照らして著しく不合理なものであり、この特約を有効とすることが賃借人にとって著しく不利益なものと認められる特段の事情がある場合に限って無効となるものというべきである。

2  そこで、以下、本件につき前記のような事情があるかどうか検討する。

(一) 本件特約について、まずその賃料の定め方をみると、毎年の固定資産税等の合計に四・〇を掛けた金額を一年間の賃料と定め、これを一二で割ったものを月額賃料としているのであるところ、従前土地の年額賃料は概ね固定資産税額ないし公租公課の二ないし三倍をひとつの目安とし、地域によっては四倍をひとつの目安とする考えも相当行われており、原告自身が不動産業を広く営む企業(弁論の全趣旨)であり、近隣の事情など賃料額の定めについても相当な知識を有していると推認されることを勘案すると、定め方自体不合理であるとはいえない(原告自身も本件特約の有効性を本件賃貸借契約締結時に遡って争う趣旨ではない。)。

なお、原告は、本件特約は立て替えにあたっての特例的、緊急避難的色彩の強いものであり、経済情勢の異なる今日においては妥当しないとも主張する。その意図するところは判然としないが、原告も本件賃貸借契約締結時から遡って本件特約の効力を争う趣旨ではない以上、要するにその趣旨は、本件賃貸借契約締結後のその後の経済情勢の変動によって、固定資産税等の合計額の四倍を年額賃料とする本件特約が妥当性を失っているという主張に帰着されるところであり、この点については(二)に検討するところである。

(二) そして、本件において本件特約を前提にした場合の年額賃料は

昭和六二年 三九二四万七三二〇円

昭和六三年 四五一三万四四一二円(前年比一五パーセント増。以下増加割合はいずれも前年比を指すものとする。)

平成元年  五一九〇万四五八四円(一五パーセント増)

平成二年  五二七三万六七三六円(一・六パーセント増)

平成三年  五七九六万三九三六円(九・九パーセント増)

平成四年  六三七一万〇三八八円(九・九パーセント増)

平成五年  六八〇五万七六二八円(六・八パーセント増)

平成六年  七四六七万五九六四円(九・七パーセント増)

平成七年  八〇二一万五二六〇円(七・四パーセント増)

平成八年  八四一六万一五六八円(四・九パーセント増)

平成九年  八八八一万七九七六円(五・五パーセント増)となることには当事者間に争いがない。

前記賃料額の推移をみると昭和六三年、平成元年が一五パーセント増であるが、その後はいずれも一〇パーセント以内の上昇に収まっており、他方、証拠(乙一)によれば、昭和四五年から本件賃貸借契約締結時である昭和六一年までの固定資産税等の前年度比上昇率は約一六パーセントであると認められることに照らすならば、前記のような上昇が当事者の予測を超えた異常事態であるとまではいうことはできない(なお、平成九年の上昇率は五・五パーセントであるが、証拠(乙一一ないし一七)及び弁論の全趣旨によれば、同年の坪当たりの固定資産税は前年と同じであり、都市計画税が二パーセント上昇しているだけであり、この上昇は、本件土地のうち一一土地について原告に賃貸している部分以外の三名の住宅がなくなったため、平成九年の評価替にあたって、一一土地全体が非住宅扱いとされたためと認められるが、このような事態もまた、本件土地がJR池袋駅東口すぐ近くの完全な商業地域に存すること(甲三)に照らしても、不動産賃貸業を営む企業である原告としては当然知っていた又は知り得たということができる。)。

なお、原告は、平成六年度から固定資産評価額を地価公示価格の七割程度とする画一的な評価替が実施されることになったが、契約締結当時原告も被告らも固定資産評価額が将来大幅に引き上げられることを予見し得なかった旨主張しているが、確かに固定資産評価額は平成六年に急激に上昇しているが、本件特約は固定資産評価額を基準とするものではなく、固定資産税を基準とするものであるから、固定資産税等の上昇率、そしてそれを基準として算定される年間家賃の額の上昇率が急激かどうか判断するべきであり、その上昇率は前述したとおり九・七パーセントと、他の年度と異なるわけではないのであるから、当然予想の範囲内であるといえる。

(三) そして、逆に証拠(乙一一ないし一七)によれば、平成一〇年度以降には固定資産税等の見直しがされ、逆に賃料は減額され、本件特約を基礎にした場合の年額賃料は

平成一〇年 八二六九万二六八四円

平成一一年 七九〇四万八九六八円

平成一二年 七〇二六万三三二四円と減少し続け、平成一二年には既に、賃料の暫定的な修正がされる前の平成五年に近い水準にまで回復し、平成八年の暫定賃料額も下回っている事実が認められる。

3  これらの事情からすると、本件特約が、旧借地法その他の法令に照らして著しく不合理なものであり、この特約を有効とすることが賃借人にとって著しく不利益なものと認められる等の特段の事情は認められない(本件賃貸借契約締結後に、契約の基礎となる事情が変わり、その結果当事者間の衡平を欠いて前記特段の事情が発生したともいえない。)。確かに、平成六年ないし九年には、本件特約に基づいて算定された賃料は従前にない高い金額に上ったものの、この時点では、諸事情を勘案して一部減額していることは当事者間に争いのないところであって、現在では本件特約に基づく算定方法を修正すべき合理的理由も認められない。

4  ところで、原告提出の鑑定評価書(甲三)は平成九年一月一日以降一か月の賃料は五〇六万円が相当であるとしているところ、これを基礎とすると本件特約を前提にした平成一〇年の賃料六八九万一〇五七円はやや高いということになる。しかしながら、本件特約のような賃料の定めをする以上は、このような相場との乖離が一定限度で生じるのはやむを得ないことであり、逆に固定資産税等の下落により約定賃料が相場に比べて低くなる可能性もまた否定できないところである。そうすると、前記のような差額を考慮しても、なお、本件特約の効力を否定しなければならない程大きな不公平があるとまで断定することはできないといわざるを得ない。

第四結論

よって、原告の請求は、その余について判断を加えるまでもなく理由がない。

(裁判官 田代雅彦)

別紙 物件目録

一 所在 豊島区東池袋一丁目

地番 四一番二二

地目 宅地

地積 八五一・五三平方メートル

のうち、別紙図面赤線内部分三七二・七七平方メートル

二 所在 豊島区東池袋一丁目

地番 四一番一一

地目 宅地

地積 六四六・九〇平方メートル

のうち、別紙図面青線内部分三一一・〇七平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!